2023年9月4日
失敗を記録していますか?
30代半ば、ある講演会後の懇親会にて、自動車の自動ブレーキを開発している方に言われた言葉です。失敗が価値になることに気付かされた私の転換点でした。
私は微生物(きのこ)の研究をしています。その講演会にて、私は10年近くにわたる自身の研究成果、言わば成功したこと(多くはないですが)を抜粋して発表しました。その後の懇親会で偶然となりに居合わせたのが、自動運転について研究されている企業の方で、「先生、今回の発表の裏には、おそらくたくさん失敗した実験がありますよね?それって記録しています?自動ブレーキの開発しているんですけど、AIに成功例だけ覚えさせても全然ダメで、いかにたくさんの失敗例を学習させるかで、性能が決まるんですよ。」と話してくださいました。
30代になり、ある程度仕事もできてはいるのですが、失敗も多く、論理的に考えることが苦手でなかなか成果が出ない自分に苛立ちを覚えていた時期でもありました。そんな私にとって、失敗や遠回りにも価値があるように思えた転換点でした。
情報がすぐに手に入る近年、成功例や論理を知ることも容易なため、あらゆる事項を簡単にわかったつもりになりがちです。ただ、その答えらしきものが導き出された裏には多くの失敗があり、偶然の結果や、直感により得られた成果も多いと思います。山口周さんの「ニュータイプの時代」という本によれば、正解を素早く出す力には今はあまり価値がなく、論理的に計画し実行するよりも、とりあえず試して偶然性を戦略的に取り入れることが、これからの思考や行動に重要だそうです。「計画的な行き当たりばったり」という言葉もあり、あえて遠回りしてもいいかなと今は思っています。
先週末、某ショッピングセンターでどこに車を駐車したか忘れ、しばらく徘徊してしまいました。あたりが暗くなった頃やっと見つけたのですが、偶然、夏祭りの花火が見え、花火観覧の穴場を見つけてラッキーでした。遠回りと失敗も悪くない、でも駐車した場所は駐車場の柱に書いてあるアルファベットと数字で覚えようと学んだ休日でした。
金野 尚武 (こんの なおたけ)
准教授
農学部 応用生命化学科
博士(農学)。専門分野は、生物高分子材料学、きのこ科学。岩手生物工学研究センター研究員、PD日本学術振興会特別研究員を経て、2013年より現職。バイオマス利用について、きのこ科学の視点から研究に取り組んでいる。
※記事の内容、著者プロフィール等は2023年8月当時のものです。