政治にもアップデートが必要だ(1/2) 地域デザイン科学部 三田妃路佳 准教授

2024年3月29日


 政治と聞くと、多くの人は自分とは関係ない、わかりにくいと考え、関心を持たない人もいるかもしれません。しかし、私たちの生活は政治の決定によって影響を受けています。コロナ禍での緊急事態宣言による学校の休校や行動制限はわかりやすい例ですね。
 私たちは、選挙や納税を通じて政治や行政と関わっていて、税金は政府の活動だけでなく、政党の活動にも政党交付金という形で使われています。私たちは政党の活動を税金で支えているんですね。

政治とカネの話

 しかし、この政党交付金は役に立っていないのかと思われる事件が起きています。それは、昨年11月に発覚した自民党旧安倍派による議員へのキックバック事件です。最大派閥の旧安倍派では、政治資金パーティで議員に課せられたパーティ券のノルマ以上の販売収益があった議員には、収益がキックバックされていたことが発覚しました。キックバックされた収益は派閥や議員側の収支報告書に記載されておらず裏金化していたことも明らかになりました。東京地検特捜部は、安倍派の会計責任者が5年で計6億7503万円、二階俊博元幹事長率いる旧二階派の会計責任者が5年で計2億6460万円のパーティ券収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとし、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で両派の会計責任者を在宅起訴しました。旧岸田派についても、会計責任者が3年で計3059万円のパーティ券収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとし、罰金刑を求める略式起訴をしました。

お金のイラスト  これまで、政治とカネの事件は、贈収賄に関わる事件でした。黒い霧事件、ロッキード事件、金丸事件、リクルート事件、日歯連事件など、企業から政治家への政治献金が行われ、お金の力で政治に影響を与えようとした事件です。
 これに対し、今回の問題の中心は、派閥と政治家の裏金問題です。派閥や議員がパーティ券で得た収入を政治資金収支報告書に記載せず、公にしなかっただけでなく、記載しなかったお金を表に出せない何かに使用したという問題です。


なぜお金が必要なのだろうか。なぜ隠すのだろうか

 政党は、政治活動のために政党交付金を受け取っています。政党交付金は、1994年に成立した政党助成法に基づいて創設され、国民は1人当たり250円負担し、総額は人口に250円を乗じた額となります。各政党には、政党に所属する国会議員の数などに基づいて交付。2024年度の総額は315億3600万円で、自民党には160億5300万円、立憲民主党には68億3500万円、日本維新の会には33億9400万円、公明党には29億800万円、国民民主党には11億1900万円といったように、受け取りを拒否している共産党以外に交付されています。これでは足りないとする自民党の政治活動の現状がこの問題の根底にあります。

 1988年に発覚したリクルート事件、1992年に発覚した金丸事件を経て、1994年に行われた政治改革では、選挙制度改革と政治資金規正法の改革、上記の政党交付金が導入されました。多額の献金ができる特定の企業や個人のためだけに政治が動くことがないように、金がかからない政治を目指し、政治にかかるお金は国民全体で負担をすることとしました。


中選挙区制度時代に進んだ派閥の繁栄

 94年の選挙制度改革以前、中選挙区制度で選挙が行われていました。これは、1つの選挙区から複数人選出する制度であり、政党は多くの当選者を出すために複数の候補者を同じ選挙区に立てます。同じ政党の候補者が争う、同士討ちといわれる状況が生じ、候補者は政党に頼って当選することはできなかったのです。そこで、候補者は、同じ政党の派閥の支援を受けるようになりました。また、自らの後援会を作り、維持拡大する必要があったのです。

選挙の様子のイラスト

 候補者は、自分なら地元に利益をもたらすことを示し、支持を拡大しなければなりません。そのためには、有力な派閥に属し、自分なら中央省庁への影響力があり公共事業などを地域に誘導できると示す必要がありました。また、地元に自らの後援会を維持し、地方議員を支援することも必要でした。選挙の時以外にも、日ごろから、地元との人間関係を構築するために、地元に秘書を複数配置するなど、相当な費用がかかりました。お金のかかる中選挙区制度の下で候補者は、企業からの献金や政党・派閥からの支援をあてにしました。
 自民党での派閥の役割は、選挙での仲間の候補者の支援と、そのためのカネの調達と分配、派閥が政党へ推薦しメンバーに大臣等ポストを獲得させる役割、政策研究であるとされます。当選した候補者は、支援をしてくれた派閥のリーダーの子分となり、こうして各派閥は人数を増やし、影響力を強め、リーダーを自民党総裁にすることを目指しました。総裁になると国会での多数派を占める自民党の場合は内閣総理大臣となります。


カネのかからない政治を目指した政治改革であったが

 こうしたお金のかかる政治を解決するために、小選挙区比例代表制が導入されました。小選挙区制では、1つの選挙区から1人当選します。政党は候補者を1人しか立てなくなり、同じ政党内での争いはなくなり、政党間の政策をめぐる選挙になると期待されました。候補者は、当選するために後援会を維持する費用を必要としなくなると同時に、派閥の影響力が抑制されるだろうと考えられました。
街頭演説のイラストしかし、94年の政治改革を経ても、いまだに政治にはお金がかかり、派閥は存在しています。派閥は仲間の選挙での支援のため、派閥から総裁を出すため、お金を集め続けています。
 自民党議員は、秘書を複数人地元に置くためにお金が必要だと説明していますが、さらにリアルに述べているのが田中真紀子氏(毎日新聞、2023年12月22日夕刊付)。田中氏は「地盤培養行為」に金が必要だと言います。「地方議員や後援会幹部を集めて飲食させる費用、私設秘書を何人も雇う費用」だと。今回のキックバックもこうした使途に支出されたと考えられます。(ちなみに国会議員が地方議員の政治団体に寄付しても、収支報告書に記載しておけば通常は適法な地盤培養行為とみなされます。)
 田中真紀子氏は、父親の田中角栄の時代には「事務所には公共事業担当の秘書、就職の世話を担当する秘書らがいて、分野別に要望をさばいていた」そうです。地盤培養行為をする議員が、それをしない議員より当選すれば構造は変わりません。地元の地方議会議員や後援会幹部が国会議員に様々な要望や期待をする習慣は続いていくでしょう。政治はお金がかかるままというわけです。


-自らをアップデートしている政治家を- 私たちが選んでいく

 地域の未来を考えた時、地元の冠婚葬祭に顔を出したか、後援会などとの飲食にお金をかけたか、細かい世話をしてくれたかどうかではなく、その候補者が何を目指しているかで比較した方が、プラスになるのではないでしょうか。
 今回の事件を経て自民党は党の政治刷新本部での議論をもとに、政治資金規正法の改正を予定しています。自民党は本気で政治改革を実行するでしょうか。今から35年前のリクルート事件当時、野党には勢いがあり、自民党には危機感がありました。現在はどうでしょう。野党には当時のような勢いがありません。
投票の様子のイラスト  経済をみれば、日銀はゼロ金利政策を廃止。賃金も上がってきました。少しずつ経済には変化の兆しがみえています。政治はどうでしょうか。パソコンや携帯はセットすれば自動でアップデートされますが、政治は自動ではアップデートされません。政治をアップデートするには、社会の変化に合わせて自らをアップデートしている政治家を選んでいかなければなりません。国会は年齢やジェンダーが偏っています。古い価値観を持った議員を中心とした政治のままでは、新しい価値観、多様な価値観は入りにくいといえます。政治のアップデートには、新しい価値観をもった30代、40代の現役世代の関心が欠かせません。





著者プロフィール 三田妃路佳 准教授

三田 妃路佳 (みた ひろか)
准教授
地域デザイン科学部 コミュニティデザイン学科

博士(法学)。専門分野は、政治学、行政学、公共政策論、地方自治論。椙山女学園大学・同大学院准教授、ハーバード大学ウエザーヘッド国際問題研究所客員研究員(フルブライト奨学金)を経て、2016年より現職。政策転換の要因分析や規制改革について、政治学の視点から研究に取り組んでいる。単著『公共事業改革の政治過程』(慶應義塾大学出版会)、共著・編集『対立軸から見る公共政策入門』(法律文化社)など。

※記事の内容、著者プロフィール等は2024年3月当時のものです。