2024年6月11日
政治分野における女性進出の現状
近年、女性活躍といわれますが、世界と比較して特に政治分野への女性の進出は少ないままです。女性の国会議員は衆議院では51名(465名中)、参議院では66名(247名中)と合計117名で、欠員を除いた国会議員全体712名の16%(2024年5月現在)に過ぎません。2018年に衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指した「政治分野の男女共同参画推進法」が制定されて以降、女性議員の比率は上昇し、2022年の参院選で女性の当選者は28%と過去最高を記録しました。しかし、「列国議会同盟」(IPU)による各国国会(下院に相当)の女性議員の割合をみると、186カ国中、日本は162位の10.3%(2024年4月時点)で、平均の26.9%を下回っています。フランス37.3%、イギリス34.8%と比べて低く、主要7カ国の中で最低です。
2021年10月の衆議院議員選挙では女性の当選者は45名で全体の9.7%でしたが、近年の補選では女性が当選しています。例えば、最近の2024年4月に行われた3つの補欠選挙の結果をみると、東京15区、島根1区で女性候補者が当選しており、女性議員を増やそうという流れが少しずつできていることも否定できません。そうはいっても、下院に相当する議会で女性議員の比率を186か国の平均に近づけるだけでも、まだまだ遠い道のりです。
地方議会については、内閣府の男女共同参画白書(2022年版)によれば、2019年の統一地方選での女性の当選者の比率は、東京23区は31.0%でしたが、都道府県議会10.4%、市議会18.4%、町村議会12.3%と、東京と比べ低くなっています。女性議員がゼロの議会すらあります。一方、女性は人口の51%を占めており(2022年10月現在)、18歳以上の有権者の中で女性は51.7%を占めています。現在の議会は社会の人口構成を反映していないのです。むしろ高年齢の男性が決定の中心におり、女性や若者は決定に関わりにくいという現状を反映しています。
女性議員へのインタビュー調査から見えてくるもの
何が女性の議員を増やす壁になっているのでしょうか。前回このマガジン(2024年3月29日掲載「政治にもアップデートが必要だ」)で、政治にお金がかかる理由の1つに、田中真紀子氏が述べる「地盤培養行為」、つまり地方議員や後援会幹部を集めて飲食させる費用、私設秘書を何人も雇う費用にお金がかかることを述べました。地元の冠婚葬祭に顔を出したか、後援会などとの飲食にお金をかけたか、細かい世話をしてくれたかどうかで当落が決まる選挙では、これらに時間を割きにくい候補者の当選は難しくなります。
実態をより明確にするために、私の研究室では、2023年度の3年生が、三浦まり著『さらば、男性政治』を読んだうえで、政党の栃木県支部連合会や個人事務所などに連絡をし、女性の栃木県県議会議員を中心にインタビュー調査を行いました。質問内容は、主に女性が議員になりにくい理由と考えられる立候補時の苦労や当選してからの苦労、政党が女性議員を増やすための取り組み、クオーター制への見解などです。
ハラスメント
立候補時や議員となってからの苦労では、まずハラスメントがあります。インタビューを行った全ての女性議員が、女性であるためと考えられるハラスメントを受けていました。例えば、「街頭での活動の際にゴミ拾いなどを求められる」や「わざとぶつかりにくるような人もいる」というものです。ハラスメントは有権者からだけでなく、同僚の議員からもあり、悪質なヤジを飛ばされたり、育休を取る際に「早く帰ってこないと席がなくなる」など声をかけられたりしたという話がありました。
議員活動と子育てなどの両立、性別役割分担意識の壁
次に議員活動と子育てなどとの両立の難しさです。「夜の会合や飲み会などは家族や子どもとの時間が取りづらくなるため、男女問わず子育て中の議員にとっては大きな負担になる」という意見が子育て中の男性議員からありました。
会合に出席するといった「対面主義」による政治活動による負担は、先の著書『さらば、男性政治』でも女性議員が増えない要素として指摘されていましたが、インタビュー調査を通じて、子育て世代で政治に携わりたいと考える人の壁となっていることが明確になりました。ただし、今回のインタビューでは、小学生の子供のいる議員からは、「出産前と同じように夜の会合に参加することはできなくなったが、母親という立場から今までと違った地域の人との関わり方を見つけた」という意見もあり、工夫次第で子育て中の議員でも議員活動を続けられるという側面も見えました。
また、女性議員に性別役割分担意識が刷り込まれていることが政治活動の壁となっていることも見えてきました。女性として「家事や育児、介護などをやらなければならない」という思い込みや、これらを人に任せることの罪悪感から、結果として選挙活動や議員としての仕事と出産や子育てとの両立に苦労するという意見がありました。他方で、複数回再選し、議員を続けている女性議員は、家事代行サービスの利用や夫婦でうまく家事を分担する「トモカジ」を進めています。女性議員自身の認識を変えることも必要であるといえるでしょう。
選挙制度の壁と政党の努力
女性議員を増やしにくい理由として政党事務局が述べていたのは、現行の選挙制度でした。1人選出する選挙区で、そこに現職の男性議員がいると、次の選挙でこの議員が引退しない限り、女性を立候補させられないということです。現在、衆議院議員選挙では小選挙区比例代表並立制が採用されています。衆議院の小選挙区や、地方議会議員選挙での一人区は、女性議員を増やす制度の壁となるのです。インタビューで女性の国会議員が、女性議員を増やすには、比例代表制で女性を上位にすることだと指摘していましたが、もっともなことです。この選挙制度の壁を乗り越えるには、政党の努力が不可欠です。
対面主義の選挙に地域差はあるか
研究室では、都市と地方とで女性議員の選挙の苦労は違うのかを明らかにするために、杉並区選出の国会議員と杉並区議へのインタビューも行いました。結論から言えば、都市であっても地方同様に地域での活動や街頭演説など有権者と関わる機会が重要視されることは変わりませんでした。有権者にいかに自分の活動を知ってもらうかということが非常に重要であると認識しているためです。地域によって「対面主義」が変わるわけではありません。
ただし、地方のほうが、都市部に比べて住宅一軒一軒が遠いことから戸別訪問やポスティングなどにかかる労力が大きく、また、地方部は相対的に高齢者の割合が多いことから、都市部に比べてSNSでの広報活動の効果が薄いと考えられます。
多様性のある議会が生み出すもの
インタビュー調査を行った杉並区では、2021年に東京8区(杉並区中西部)で女性が当選し、2022年には女性区長が誕生、2023年には区議会の過半数が女性議員(23区初)となりました。その後、NHKでも報道されていますが、子育て世代の政策の見直しが住民の要望に対応しスピーディに実現しています。対応したのは2023年初当選の女性議員でした。
議会での議員の構成は政策の内容に影響します。子育てや家事を女性に任せきりであった男性がつくる子育て政策は、金銭面に偏り表面的になります。これまで国が1990年代から少子化対策に取り組みつつも成果が乏しかったのは、意思決定の中心が子育て経験の乏しい男性に偏っていることも影響していたのではないかと考えられます。社会の変化に合わせたさまざまな政策をつくるには、さまざまな視点や議論が必要ですので、多様な候補者の選挙での当選が欠かせません。
2020年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」では、国政選挙や統一地方選挙の候補者の女性比率を2025年までに35%に引き上げることを目標に掲げています。政党が女性候補者を増やす努力をするだけではなく、女性が立候補や議員活動をしやすくなるよう、社会全体の意識の変化が必要なのです。
三田 妃路佳 (みた ひろか)
准教授
地域デザイン科学部 コミュニティデザイン学科
博士(法学)。専門分野は、政治学、行政学、公共政策論、地方自治論。椙山女学園大学・同大学院准教授、ハーバード大学ウエザーヘッド国際問題研究所客員研究員(フルブライト奨学金)を経て、2016年より現職。政策転換の要因分析や規制改革について、政治学の視点から研究に取り組んでいる。単著『公共事業改革の政治過程』(慶應義塾大学出版会)、共著・編集『対立軸から見る公共政策入門』(法律文化社)など。
※記事の内容、著者プロフィール等は2024年6月当時のものです。